黄色いカブで行く四国+しまなみ物語2

「こんにちは!」

「はじめまして」

今回会う最初の生産者さんは広島高根島で柑橘を栽培する貝原さん。

昨年からのお付き合いだが、信頼の置ける生産者と見込んで、一度会ってみたかった。

「汚い軽トラですみません。島をご案内します」

「汚い軽トラは慣れてるから。よろしく」

橋を渡り隣の生口島から高根島へ。

「僕が生まれた時にはもうこの橋はできていました」

時期的に木になっている柑橘の収穫はほぼ終わり、島中に点在する畑を見せてもらうことに。

広さにして東京ドームの半分の畑に1500本位の木々があるそう。

「従業員は?」

「僕一人です」

「一人!?それって大変でしょ!」

「大変ですね。あとは奥さんが販売の方を手伝ってくれます。もう奥さん無しではダメです。別れられないですよ」

「最初は、いいものを作れば売れると思っていたけど、全然。泣く泣く廃棄したり」

「結局売り先なんだよね。特に若い農家さんは」

「農協とかにみかん卸しても、1箱150円とかなんです。それじゃ農家もやる気が起きないですよ。だから本当に美味しいものを作って自分で売っていきたいです」

「土作りは?」

「特にやっていません。ここは元の土がいいんです。島でも農薬や除草剤を使っている農家さんもいて、そういうみかんは味が薄いですよね。土もダメにするし。それが海に注がれて汚してしまうんです」

小さい島だけど、場所によって水はけや日当たりや気温が異なり、それに合わせてみかんやレモンなど適地を考え、木を植えているそう。

「ヤギ飼ってるんだ」

「あっ、近づかない方がいいですよ。そいつ凶暴なんで」

元々は馬が好きで、畜産の学校に進んだとか。

その後、ワーキングホリデーでオーストラリアに2年間農業の仕事、帰国後造船の仕事を2年、その後に自分で農業を始めたそう。

この島の産業は農業、観光、造船だとか。

「その先が呉です」

呉と言えば戦艦大和を作った場所。

「なんでこの辺は造船が盛んなの?」

「海が静かで波がないからだと思います」

「なるほどね~」

「ところで、ヤギ飼ってるけど、好きな馬は飼わないの?」

「島に獣医がいないんです。ヤギは勝手に育つけど、馬は診てもらわないとダメなんです」

「そうなんだ」

「あそこの土が出ているところ、全部猪が掘り返した場所です。もう猪の被害がひどくて」

「そんなにいるの?」

「最初は山の上だけだったのに、下の方に降りてきて、柑橘を食べてしまって」

「無農薬の美味しい作物だけ食べるってパターンでしょ」

「そうなんです」

「どこの農家さんも一緒だね」

「穀物を食べている猪より、柑橘を食べている猪の方が臭みがなくて美味しんですよ。僕も畑で罠を仕掛けて獲った猪をさばいて食べるんですけど、めちゃくちゃ美味いですよ」

「そんなに美味いんだ」

「特に背中のたてがみのあたりが美味しくて、奥さんも大好きです。誕生日には猪が食べたいとか言うし」

「ほう。それは食べてみたいなあ。今度穫れたら送ってよ」

「大丈夫なんですかね、許可とか。猪をさばく許可は持ってますが」

「その辺はよく分からないけど。俺たちが食べるんだからいいんじゃない?」

「ここの畑は僕が一番好きなところで。晴れてると海がきれいですよ。虹色になったり」

「晴れてる日に来たかったね」

「奥さんにプロポーズしたのもここです」

「そうかあ。それじゃあ記念の場所で記念写真撮ろうか」

「はい」

「来て良かった。今後ともよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「そうそう、ジュースもめちゃくちゃ美味しかったよ。好評だったけど無くなるの早かったね」

「来年は量を増やします」

「来年はうちでフレスコオリジナルラベル作ろうかな」

「いいですね」

「また楽しみにしているよ」

「これ、お土産にどうぞ」

「嬉しい♪ありがとう」

貝原さん、今年で6年目でまだ若いけど考え方もしっかりしていて、将来有望な農家さん。

会いに来て良かった。

町に戻ってうろうろしていると、柑橘があちこちで売られている。

自動販売機でも売られている。

さすが柑橘の島だ。

 

夜は一人で飲みに行く。

貝原さんも誘ったけど「今日は島の消防団の集まりがあって」

「それは残念」

「そんな集まりばっかりですよ。島だから仕方ないけど、大変な役回りばかり任されて。農家が暇って間違った感覚があるみたいで」

「どこもそうみたいだね」

結局、お好み焼き屋へ。

広島風を食べてみたかったのもあるけど、やっている店がここしかない。

居酒屋兼酒屋で、お酒はお店で販売しているそのままの値段。

安くていい。

魚の天ぷらって書いてあったから頼んだら、かなりイメージと違った。

素揚げ?

美味しかったけど。

家族経営のようで、お母さんと息子さん、お父さんはお皿の片付け。

息子さんはがんばっていたけど、極度の口下手って感じ。

それでも最近多いという外国人のお客さんにも、がんばって接客していた。

圧巻だったのはお母さんの接客。

常連の方らしい服とお化粧かなり派手な74歳女性「この店、私の故郷みたいよ!ね~、そう思うでしょ!」ビールの大瓶2本と焼酎飲んで酔っ払ったおばさまを丁重に見送り。

サイクリストっぽい高齢者の集団「さっき電話しただろ。席は?」「こっちは豚天でそっちは海鮮だって。全部で8人。なんで10枚なんだよ」と注文もよく分からない人たちにも落ち着いて笑顔で的確に処理。

外国人にも一言二言の英語で上手に対応。

忙しい中での電話対応もスムーズ。

時折僕にも話しかけてくれたり。

なんか高級料亭の気が利くベテランの女将さんみたい。

(行ったことないから分からないけど)

表情だけの笑顔ではなく心からの笑顔を感じたし、誰もが心地よく食べて飲める。

ちなみに息子さんは5人組の外国人相手に「あ~、ノーミート。え~と、オクトパス!」とがんばっていた。

そんな様子を見ながら飲んで、ちょっと楽しかった。

思わず帰りに「お母さん、接客素晴らしいですね」と声をかける。

「まあ、そんな風に褒めてもらって」

「僕も接客やってるんで見習いたいです」

「もう70過ぎているんですよ。今日は騒がしくてごめんなさいね」

「いや、すごく楽しかったですよ」

「気を付けて帰ってくださいね」

「ごちそうさまです」

宿に戻って地元産のレモンチューハイ。

思えば、朝は5時起きで、成田まで行って、飛行機に乗って、雨の中バイクで走って、かなり忙しいスケジュールだった。

一気に眠気。

22時就寝。

 

続く